この記事では、高校生物の第6章「動物の反応と行動」に登場する“神経の伝導速度と伝達時間などの計算問題”の解き方について解説を行っています。日常学習のお役に立てたら幸いです。
問題
では、まず問題を解いてみましょう。下のスライド1が問題用紙になります。標準解答時間は15分です。15分経っても解けなかった場合は、解答と解説を見ましょう。
解き具合はどうだったでしょうか。問1から問3まではタイトル通りの計算問題で、問4と問5は図の問題として出題させて頂きました。神経筋標本の問題ではこれくらいが頻出だと思います。以下の解答・解説を見て、自身の実力につなげましょう。
解答
解答は以下の通りです。
問1.30(m/秒)
問2.4.0ミリ秒
問3.12ミリ秒(11.7ミリ秒を有効数字二桁にする)
問4.②
問5.A点:③、B点:⑥
解説
計算するうえで前提となる知識
①神経筋標本において、神経刺激から筋収縮するまでの時間の要素
神経と筋肉がつながれている神経筋標本において神経を刺激した場合、筋肉が収縮するまでにかかる時間は次の3つの要素があります。
- 神経刺激部から神経筋接合部までの神経の伝導時間
- 神経筋接合部における神経の伝達時間
- 筋肉に刺激(神経からの伝達)が伝わってから筋肉が収縮するまでの時間
このテーマの一般的な問題で時間を求める場合、上記の②を答えることが多いです。その場合は、③は問題文に記載があり、①は問題文中の神経の伝導速度と距離から時間を求め、最終的には次の式を使います。
神経の伝達時間②=合計時間-(神経の伝導時間①+筋収縮時間③)
神経を刺激してから筋収縮が起こるまでの時間は、次の3つの要素が含まれる。
- 神経伝導時間
- 神経伝達時間
- 筋肉の収縮にかかる時間
②速さ・時間・距離の関係(公式)
このテーマでは、速さ・時間・距離のどれかを計算で求めるケースが多々見られます。速さ・時間・距離に関しては、小学校算数or理科で習ったように、次の公式が成り立ちます。
距離=速さ×時間
今の学生がどうかはわかりませんが、私の場合は“おはじきの図”を描くことで、速さ・時間・距離の関係を暗記せずに求めていました。
上のスライド2の“おはじきの図”において、隣り合う場合はかけ算、下のどちらかを求める場合はそのまま分数(割り算)というようなものになります。図を確実に描けるようになっておけば、公式に迷うことはないでしょう。
速さ・時間・距離の公式を暗記しておこう!
問1.神経の伝導速度を求める計算問題!
坐骨神経の伝導速度(m/秒)を求めなさい。(神経筋接合部からA点およびB点の距離はそれぞれ6.0cm、12cmであり、A点またはB点を刺激したときの筋収縮が起きるまでの時間は、11ミリ秒と13ミリ秒であった。)
この問題は計算問題です。問題文にあった設定を読み取り、時間と距離から坐骨神経の伝導速度を求める問題でした。
読み取るべき情報は上の赤枠に示していますが、これを図に表すと、次のスライド3のようになります。
A-B間の距離が6.0cm、その間にかかる伝導時間が2.0(13-11)ミリ秒であることから、伝導速度は3.0cm/ミリ秒だとわかります。しかし、問1で計算結果を答える単位は“m/秒”となっていることから、単位の変換を行う必要があります。
単位変換方法は、次のスライド4のようになります。
※単位の変換を誤っていました。『1cm=1/100m』になります。ご迷惑をおかけしました。
『ミリ秒』の“ミリ”とは“m”であり、1/1000(千文の一)の意味を持ちます。距離の1mmが1/1000mであることの応用です。
以上で、解答の30m/秒と解答することができました。
計算結果の単位を必ず確認しよう。本テーマ以外にも見かける“ひっかけ問題”なので、ミスしないように注意すること。
問2.神経の伝達時間を求める計算問題!
神経筋接合部において、伝達にかかる時間(ミリ秒)を求めなさい。
この問題は計算問題です。神経筋接合部において伝達にかかる時間を求める問題でした。
上述の前提知識①で紹介したように、神経筋標本の神経を刺激して筋肉が収縮するまでの時間には、次の3つの要素が含まれます。
- 神経刺激部から神経筋接合部までの神経の伝導時間
- 神経筋接合部における神経の伝達時間
- 筋肉に刺激(神経からの伝達)が伝わってから筋肉が収縮するまでの時間
②を解答することになりますが、式は『②=総合時間-(①+③)』という簡単なものです。
では解説に入りますが、A点を刺激した場合として答えを求めることにします(B点でも求まります)。
問題文を読めば、次の2つがわかります。
- A点を刺激して筋収縮が見られるまでの時間は、問題文にある通り11ミリ秒だとわかります。なので、総合時間を11ミリ秒としてよいでしょう。
- ③については、問題文に5.0ミリ秒(筋肉を直接刺激した場合に収縮までかかる時間)だとわかります。
なので、あとは①の伝導時間を求めます。問1で坐骨神経の伝導速度は3.0cm/ミリ秒だとわかっているので、A点から神経筋接合部までの伝導時間は、
伝導時間=6.0(cm)÷3.0(cm/ミリ秒)=2.0ミリ秒
と求めることができます。
よって、伝達時間は、
伝達にかかる時間(②)
=総合時間-(伝導時間①+筋収縮時間③)
=11-(2.0+5.0)
=4.0ミリ秒
と求めることができました。
点Bの情報を元に伝達時間を求めることもできます。その場合、
- 伝達時間=13ミリ秒-{(12÷3.0)+5.0}=4.0ミリ秒
と答える形になります。
神経筋標本において、神経を刺激してから筋肉の収縮が見られるまでの時間には、3つの要素が含まれることを覚えておこう。頻出なので、必ず暗記です。
問3.神経刺激から筋収縮までの時間を求める計算問題!
神経筋接合部から8.1cm離れた点Cを刺激したとき、筋肉が収縮するまでにかかる時間(ミリ秒)を求めなさい。
この問題は計算問題です。神経筋接合部から8.1cm離れたC点を刺激した場合に筋収縮が見られるまでの時間を計算する問題でした。
この問題は解き方が2つあります。
- 『A点刺激時の筋収縮時間』+『A-C間伝導時間』、または『C点刺激時の筋収縮時間』-『B-C間伝導時間』
- 伝導時間、伝達時間、筋肉に刺激が届いてからの筋収縮時間の3つの要素の合計時間
どちらも簡単ですが、①の方法の前者を紹介したいと思います。
C点を刺激して筋収縮が起こるまでの時間は、『A点を刺激したときに筋収縮が起こるまでの時間』に『A-C間伝導時間』を足すだけで求めることができます。これは、A-C間が神経だけであり、時間の要素が伝導だけだから、と言うことができます。計算式を立てると、次のスライド5のようになります。なお、問1で解答した伝導速度の値を使っています。
スライド5はA点の総合時間にA-C伝導時間を足すものでしたが、先の黒板①の後者にあるように、『B点の総合時間からB-C伝導時間を引く』ことでも求めることができます。B点の方がC点よりも筋肉から遠いので、『引く』ことになります。そしてその際の式は、次のようになります。
★C点を刺激して筋収縮が起こるまでの時間
=13ミリ秒-{(12-8.1)÷3.0}ミリ秒
=13ミリ秒-1.3ミリ秒
=11.7ミリ秒
≒12ミリ秒(有効数字二桁)
以上のように求めることができました。なお、計算の際は必ず有効数字や四捨五入の指定がないかチェックするようにしましょう。
黒板②の方法(伝導時間、伝達時間、筋肉に刺激が届いてからの筋収縮時間の3つの要素の合計時間)の式も、ついでにここで紹介しておきます。なお、計算には問1で答えた伝導速度と問2で答えた伝達時間を使用します。
★C点を刺激して筋収縮が起こるまでの時間
=伝導時間+伝達時間+伝達後筋肉が収縮するまでの時間
=(8.1÷3.0)ミリ秒+4.0ミリ秒+5.0ミリ秒
=11.7ミリ秒
≒12ミリ秒(有効数字二桁)
この方法では、伝導速度だけでなく伝達時間も正確に求まっている必要があります。その分、伝達時間が必要のない黒板①の方法の方が、ミスは起こりにくいと言えるかもしれません…。
問1で答えた伝導速度(計算方法によっては加えて問2の伝達時間)が必要になるので、計算ミスのないようにしておきたいところです。
問4.カイモグラフの描写を答える図の問題!
A点に閾値以上の単一の刺激を与えた場合、カイモグラフにはどのような筋肉の収縮が記録されるか。
この問題は図の問題です。神経筋標本の実験において、閾値以上の単一の刺激を与えた場合のカイモグラフの図を選択する問題でした。
(準備中)
※②~④はカイモグラフ、うち閾値以上の単一のグラフなので、②が正解。①はミオグラフの場合である。なお、実験器具の円筒の回転速度は、カイモグラフは速くミオグラフは遅い。急ぎ知りたい場合は、手持ちの資料集の神経筋標本のページを参照のこと。最低でも第一学習社のスクエアには載っています。
問5.オシロスコープの波形を答える図の問題!
a点の電極を基準にして、b点の電極に現れる電位の変化をオシロスコープで観察した。A点またはB点に閾値以上の電気刺激を与えたとき、見られる活動電位の波形は次の選択肢のうちどれか。
この問題は図の問題です。坐骨神経を刺激したときにみられるオシロスコープの波形を選択する問題でした。
(準備中)
補足
余計かもしれませんが、神経の伝導速度について補足しておきます。
神経の伝導速度は、“有髄or無髄”・“軸索の直径”・“温度”に影響を受けます。
- 跳躍伝導ができることから、有髄神経の方が無髄神経よりも伝導速度は大きい。
- 軸索の直径が大きいものほど、伝導速度は大きい。
- 温度が低いと、伝導速度は小さい。
温度に関しては、おそらく電子の運動速度が関与しているのでは、と管理人は考えています。一般に分子運動は高温ほど盛んです。電子に関しても同じようなものだと思います。(※例えが違っていたら訂正コメントお願いします。)
総括
神経の伝導速度や伝達時間の計算問題は、入試でよく見かける典型的なものです。高校生物の知識に加えて、小学校算数または理科の“速さ・時間・距離の公式”を必要とするので、少しだけ分野横断的な問題であるとも言えます。また、解き方が1つではない問題もあるので、初見の際は頭を悩ませるものとも言えるでしょう。ここで経験を積んでおいて、必ず解けるようにしておきましょう。
なお、問4と問5に関しては、記事のタイトルとはずれていますが関係のある問題なので、一緒に紹介させていただきました。管理人の経験では見たことはありませんが、問題集によってはカイモグラフの図を選択させるものがあります。この際なので、ミオグラフに関しても併せて学んでおくとよいでしょう。問5の電位の問題に関しては細かく言うと少し異なるテーマなので、また別の記事で詳しく紹介したいと思います。
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以上でこの記事は終わりです。ご視聴ありがとうございました。
スライド4の1m=1/100cmは単位が逆になっているのではないでしょうか。正しくは
1cm=1/100m
だと思いました。
なな 様
コメントありがとうございます。
誤りを指摘して下さり、誠にありがとうございました。
急ぎ、スライド4を修正させていただきました。
これからも高校生物の学び舎をよろしくお願い致します。
管理人シカマルより