第3章「生物の体内環境」 PR

「高校生物基礎」カニの体液濃度調節のグラフの典型問題を解説

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この記事では、高校生物基礎の第3章「生物の体内環境」に登場する“カニの体液濃度調節”の典型問題について解説を行っています。日常学習のお役に立てたら幸いです。

問題

では、まず問題を解いてみましょう。下のスライドが問題用紙になります。標準解答時間は5分です。5分経っても解けなかった場合は、解答と解説を見ましょう。

スライド1:カニの体液濃度調節の典型問題スライド1:カニの体液濃度調節の典型問題

【補足】

線の途切れている範囲では、そのカニは死んでしまう。

選択肢を選ぶだけの問題でしたが、解くことはできたでしょうか。カニの体液濃度調節のグラフの典型問題は、ほぼ知識問題になります。以下の解答・解説を確認して、知識に抜けがないか確認しましょう。

解答

A:②、B:③、C:①

解説

前提として必要となる知識

無脊椎動物であるカニの体液濃度調節のグラフの典型問題で必要になる知識は、次のようなものです。

必要な知識
  1. 淡水で生息するカニは、体内に水が入ってくるため体液濃度が下がりやすい条件下で生きているので、体内の塩分濃度を外界よりも高く保つように体液濃度を調節している。
  2. 海水で生息するカニは、体内の塩分濃度は海水と同じなので、体液濃度をほとんど調節していない
  3. 淡水と海水が混ざり合う河口付近で生息するカニは、体内に水が入ってくるため体液濃度が下がりやすい外界の塩分濃度が淡水のときは体液濃度が下がりすぎないように調節を行うが、海水程度のときは体液濃度をほとんど調節しない
  4. 川と海を行き来するカニは、最も体液濃度の調節に秀でており、外界の塩分濃度が高くても低くても体内の塩分濃度をある程度に保っている

このように多少は説明できる部分がありますが、基本的に“そのカニはそうなっている”が極論なので、やはり前提となる知識を暗記しておくことが重要だと思います。

どの生物もですが、体内の塩分濃度はある程度の範囲になっておかなければ死んでしまいます。塩分不足と塩分過多は、死亡要因になります。

淡水に生息している生物は体内に水が入ってくるため体液濃度が下がりやすく、逆に海水に生息している生物は体外へ水が出ていくため体液濃度が上がりやすいです。そのため、体液濃度を一定に保つために、この問題を解決できる“体液濃度調節機能”を持っている生物もおり、おおよそ脊椎動物で見られます。

問題の解説

問題文の概略

グラフA・B・Cは、①川と海を行き来して生息するカニ、②河口付近に生息するカニ、③外洋に生息するカニのどれだと考えられるか。

この問題は知識問題&グラフの読み取り問題です。体液濃度の調節を示しているグラフを読み取って、各グラフのカニの体液濃度の特徴を答える問題でした。

まず必要となる知識についてですが、これは上述の『前提として必要となる知識』を必要とします。読んでいない場合は、スクロールバックして読んでいただければと思います。

次にグラフの読み取りについてです。ここは詳しく見ていきたいと思います。

まずはグラフAとグラフBを見ていきましょう。まとめたものが、下のスライド2になります。

スライド2:グラフAとグラフBのカニの特徴スライド2:グラフAとグラフBのカニの特徴

グラフAは、外界の塩分濃度が低いときに体液濃度を外液より高く保ち、かつ海水程度の塩分濃度のときは体液濃度調節をしていないことから、淡水と海水の混ざる河口に生息するカニだと判断します。

グラフBは、海水に近い塩分濃度でしか生きることができず、また外界の塩分濃度と体液濃度が同じで調節をほとんどしないことから、海水で生息するカニだと判断します。

次のグラフCと淡水生息のカニを見てみましょう。まとめたものが、下のスライド3になります。

スライド3:グラフCと淡水性のカニの特徴スライド3:グラフCと淡水性のカニの特徴

グラフCは、外界の塩分濃度が低いときは体内の塩分濃度を高く保ち、かつ外界の塩分濃度が高いときは体内の塩分濃度を低く保つことから、川と海を行き来して生息するカニだと判断します。

淡水性のカニは、外界の塩分濃度が低いときは体内の塩分濃度を高く保つ調節をできますが、外界の塩分濃度が海水程度の高い値になると死んでしまいます。

上記のスライド2とスライド3をさらにまとめると、グラフの読み取り方は次のようになるでしょう。

  1. 外界の塩類濃度と体内の塩類濃度が同じで、かつ海水程度の高い塩類濃度でしか生育できない場合は、海水性のカニ。
  2. 外界の塩類濃度が低いときだけ生育し、かつ体内の塩類濃度を外界よりも高く調節している場合は、淡水性のカニ。
  3. 外界の塩類濃度が低いときは体内の塩類濃度を高く保ち、かつ外界の塩類濃度が海水程度の場合は外界と体内の塩類濃度が同じになる場合は、河口付近に生息するカニ。
  4. 外界の塩類濃度が高くても低くても体内の塩類濃度をある程度の範囲内に保っている場合は、川と海を行き来して生息するカニ。(※外界の塩類濃度が海水よりも高い場合、体液の塩類濃度は外界よりも低く保つことができる。)

解説はだいたいこんな感じで締めくくりたいと思います。

カニの名前が入試で問われることは、まずありません。今回紹介した問題のように、海水性・淡水性・汽水性(河口付近)・川と海を往来する特徴の4つが問われることになります。教科書や資料集には特定のカニの種の名前が載っていますが、おそらく覚えなくてよいでしょう。

発展:浸透圧との関係

生物基礎での浸透圧の扱い

高校の生物には『浸透圧』という重要語句があり、今回紹介したカニの体液濃度調節のテーマも『浸透圧』と結びつけることで発展内容となります。生物基礎で『浸透圧』を扱うか否かについては教科書会社によって異なるのですが、一応ここで少し紹介しておきたいと思います。

教科書会社の生物基礎での『浸透圧』の扱いは、次のようになっています。

  • 扱いがある:数研出版、東京書籍、第一学習社
  • 扱いがない:実教出版、啓林館

もし扱いがない教科書を持っている場合、目標とする大学やセンター試験の点数に応じて勉強した方がよいかを決めるとよいでしょう。なお、管理人の主観では、“いずれかの教科書会社で取り扱いがある場合はセンター試験の範囲対象になる”と考えているので、文系生物基礎の方も念のため勉強しておくことをお勧めします。

浸透圧とはなにか

水は、生体膜を介して、低濃度側から高濃度側へ移動します。

生体膜は、半透性と呼ばれる性質をもちます。水分子などのごく小さな分子は生体膜を通過できますが、大きな分子は生体膜を通過することができません。この半透性という性質を簡単な実験で試すと、下のスライド4のようなかんじになります。

スライド4:U字管を用いた浸透の実験スライド4:U字管を用いた浸透の実験

スライド4の右の図において、U字管の右側の水面上に重りを置いてみましょう。適切な重量の重りを使えば圧力がかかり、U字管の左右の水面の高さは同じになります。このときU字管の右側では重りから水面に圧力がかかりますが、同時にU字管の左側では半透膜のしきりに対して同等の圧力がかかります。この圧力のことを“浸透圧”と呼びます。イメージは、下のスライド5のようになります。

スライド5:浸透圧のイメージスライド5:浸透圧のイメージ

カニの体液濃度調節と浸透圧の関係を考察

ここでは、“川と海を行き来するカニ”(略称K)を例に挙げて説明したいと思います。

まず、淡水のような外界の塩類濃度が低いところで生活する場合についてです。上記の浸透圧の説明で書いたように、水は、生体膜を介して、低濃度側から高濃度側へ移動します。よって、カニKは外界の水が体内に浸透してくると思われます。水が体内に浸透してくると体液濃度はどんどん下がってしまうので、カニKは体内の水を体外に排出する機能などで体液濃度を一定に保とうとします。

次に、海水よりも高い塩類濃度の環境で生活する場合についてです。この場合、相対的に体液の方が塩類濃度が低いため、体外に水が浸透で出ていくことが考えられます。すると体液濃度はどんどん上がってしまうので、カニKは海水を取り込むことで水分を得て、かつ過剰な塩類を体外に排出するような機能を持っていると考えることができます。

このように、浸透および浸透圧は、下の総括で紹介している魚類の体液濃度の調節でも説明しているように、おそらくカニにも関係していると考察することができます。

総括

「カニの体液濃度調節」もなるべくわかりやすく解説したかったのですが、知識問題なのでなかなか難しかったです。それぞれのカニの体液濃度の特性を覚え、あとはグラフの読み方を知るだけですので、このテーマは理解というよりは暗記で済ませた方がよいのかもしれません。

なお、現課程の生物基礎の教科書において、体液濃度の調節については、無脊椎動物についてカニ、脊椎動物について魚類とヒトを扱っています。下のリンクは、“魚類の体液濃度調節”の覚え方と、ヒトの腎臓の典型問題です。この機会に勉強してみるとよいでしょう。

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おわりに

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