この記事では、高校生物の第3章「遺伝情報の発現」に登場する“DNAの構造”と“DNAの複製”について教科書解説を行っています。日常学習のお役に立てたら幸いです。なお、高校生物版であり、生物基礎の範囲を超えた解説になります。
DNAを構成するヌクレオチド
DNAの構成単位:ヌクレオチド
DNA分子の基本単位は、ヌクレオチドと呼ばれる物質です。DNAを構成するヌクレオチドは、1つのリン酸、デオキシリボース、塩基から成ります。
DNAのヌクレオチドの塩基は、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類があります。DNAの分子構造では、アデニンはチミンと、グアニンはシトシンと相補的に水素結合で結合しています。
デオキシリボースの炭素原子番号
デオキシリボースは五炭糖であり、炭素原子を5つ持つ単糖です。5つの炭素原子には番号が割り振られており、塩基に結合している炭素原子を1’として順に番号が当てられ、リン酸に結合している炭素原子は5’となっています。
ヌクレオチド鎖の方向性
ヌクレオチドが鎖状に結合したものをヌクレオチド鎖と呼びます。1本のヌクレオチド鎖におけるヌクレオチドどうしの結合は、片方のヌクレオチドのデオキシリボースの3’の炭素原子と、もう片方のヌクレオチドのリン酸が結合するといったものになっています。これによりヌクレオチド鎖には方向性が生まれ、ヌクレオチド鎖のリン酸が末端の方向を5’末端、デオキシリボースが末端の方向を3’末端と呼びます。
DNAの方向性をしっかりと理解しておこう。高校生物では、5’末端や3’末端の単語が定期テストや入試問題で普通に使われます。バイオテクノロジーの項目で学ぶPCR法などで登場します。
DNAの分子構造
DNAの分子構造解明の概略
DNAの分子構造、つまり、二重らせん構造を提唱した研究者は、ワトソンとクリックです。この二人は、フランクリンのX線回析データを提供したウィルキンスと合わせて三人で、ノーベル賞を受賞しました。
DNAは2本のヌクレオチド鎖が結合したもの
二重らせん構造の実体は、“二本のヌクレオチド鎖が塩基の部分で相補的に水素結合によって弱く結びついたものがらせん状になっている”というものでした。なお、DNAを構成する二本のヌクレオチド鎖は、それぞれ方向が逆になっています。
DNAの複製のしくみの概略
半保存的複製
DNAの複製のしくみは、半保存的複製と呼ばれます。このように呼ばれるのは、
“複製の際に2本のヌクレオチドが分かれ、1本になったヌクレオチド鎖を鋳型にして新しいヌクレオチド鎖が合成され、2つのDNAに複製される”
という現象が起きているためです。
簡易図で表すと、下の図のようになります。
なお、DNAの複製形式が未解明だったときは、“全保存的複製”や“部分的複製”という考えもあったようです。これらを否定して半保存的複製を証明したのはメセルソンとスタールの実験ですが、これはまた別の機会にまとめようと思います。
★典型問題の解説をつくりました。是非解いてみてください。
原核細胞の複製の様子
原核細胞のDNAは、環状DNAです。複製が始まる起点は“複製起点またはレプリケーター”と呼ばれ、そこから両方向にDNAの複製が進んでいきます。原核細胞のDNAの複製では、複製起点は1つしかありません。
非常に賢い方だったら、原核細胞のDNA複製が終わった状態では2つの環状DNAの輪が外れきれないことを指摘するかもしれません。2つの輪、つまり環状DNAを外すには、“トポイソメラーゼ”という酵素が働きます。大学レベルの内容ですので、紹介はこの程度で留めておきます。
真核細胞の複製の様子
真核細胞のDNAは、線状DNAです。複製が始まる起点は、原核細胞と同様に複製起点と呼ばれます。また、複製起点から両方向にDNAの複製が進むことも同じです。唯一異なるのは、真核細胞のDNAの複製起点は複数あることです。その理由は、“真核細胞のDNAの方が原核細胞のDNAよりも一般に長いため、複製時間を短縮するため”だと考えられています。
DNA複製の分子メカニズム(静止画説明 by 管理人)
DNA複製に関わる酵素
上に挙げた原核細胞と真核細胞のDNA複製では、複数の酵素が関与しています。DNA複製の詳細な分子メカニズムに関わる酵素なので、先に紹介しておきます。
- DNAヘリカーゼ:DNAをほどき、2本のヌクレオチド鎖にする酵素
- DNAポリメラーゼ:新しいヌクレオチド鎖の合成を行う酵素
- DNAリガーゼ:DNA断片を結合させる酵素
- DNAプライマーゼ:プライマーという短いRNA断片を合成する酵素
DNA複製の分子メカニズム
DNAの複製は、複製起点から両方向にDNAがほどかれることから始まります。DNAをほどいて2本のヌクレオチド鎖にする酵素は、DNAヘリカーゼです。ほどかれることを“開裂”とも呼びます。下の図では、複製起点からの一方向しか描いていません。
開裂によって生じた2本のヌクレオチド鎖には、それぞれプライマーと呼ばれる短いRNA断片が結合します。なお、プライマーの結合位置は2本のヌクレオチド鎖で同じではなく、下の図のようになっています。詳しく述べると、複製起点が3’末端のヌクレオチド鎖では複製起点のすぐ近くにプライマーは結合し、複製起点が5’末端のヌクレオチド鎖では開裂を進めるDNAヘリカーゼのすぐ近くにプライマーが結合します。このように違いがあるのは、DNAポリメラーゼによる新しいヌクレオチド鎖(新生鎖とも呼ぶ)の合成が、新しいヌクレオチド鎖において5’→3’の方向にしか進めないことが理由です。
プライマーにはDNAポリメラーゼが結合します。先に説明したように、DNAポリメラーゼは新生鎖において5’→3’の方向にヌクレオチド鎖の合成を進めます。開裂によって生じた2本のヌクレオチド鎖では、それぞれ逆方向に新生鎖の合成が進みます。
合成が済むと、下の図のようになります。
では、DNAヘリカーゼによる開裂を進めてみましょう。開裂が進むと、開裂の向きと新生鎖の合成が同じ場合は、DNAポリメラーゼはそのまま新生鎖の合成を進めます。しかし、開裂の向きと新生鎖の向きが逆の場合は、新たにプライマーとDNAポリメラーゼが結合して新しい新生鎖の合成が始まります。繰り返しますが、このような違いがあるのはDNAポリメラーゼの新生鎖合成が5’→3’の方向にしかできないためです。
なお、下図の上のように連続的に合成が進む新生鎖のことをリーディング鎖と呼びます。一方で、断片的に合成されていく新生鎖はラギング鎖と呼ばれます。なお、ラギング鎖の合成が進むときにできる断片のヌクレオチド鎖は“岡崎フラグメント”と呼ばれます。
プライマーはRNAで一時的なものなので、DNAポリメラーゼによって分解され、プライマーに相当するDNAに置き換えられます。
そして、ラギング鎖どうしは、DNAリガーゼという酵素によって結合します。
このような具合で、DNAの複製は進みます。
参考となるものや発展内容
DNA複製の分子メカニズム(解説動画≒管理人)
高校レベルのDNAの複製のメカニズムについて、Youtubeにてinouebiology1氏が非常にわかりやすい動画をアップロードされています。その動画が、下のものになります。
入試問題小話:リーディング鎖からも短鎖が得られる
※書物「2023年受験用全国大学入試問題正解」の大町尚史先生による総括からの紹介です。
ごく短時間DNAを複製する実験を行った場合、密度勾配遠心において長鎖を得ることはできないそうです。上述の解説の通りであれば、リーディング鎖由来の長鎖とラギング鎖由来の短鎖の両方が得られるイメージがあります。この解離は長年研究者を悩ますものだったそうですが、Cronanという研究者による「大腸菌はDNA複製の際に高頻度でリボヌクレオチドを誤って取り込み、その際DNA修復機構が働くことでDNAが切断される。」ことが、問題解決への一歩となったようです。
ごく簡単に紹介しましたが、興味のある方はぜひ書籍を開いてみてください。問題自体は東海大学の入試のものであり、巻頭で大町尚史先生が総括に取り上げています。教科書で学んだことと実験データから読み取った内容が異なるときというのは、本当に悩ましいものだなと管理人は感じました。
※紹介した書籍は入試問題研究の定番なので、進学校や塾の職員室にあると思います。職員室の先生を訪ね、見せてもらうとよいでしょう。
発展:末端複製問題とテロメア
線状DNAの末端に結合したRNAプライマーは、DNAポリメラーゼによるDNAへの置き換え効果を受けず、RNAプライマーの分だけ短縮します。なので、複製を繰り返すごとに、DNAは短縮するという現象が起きます。
もし短縮によって遺伝子の一部が消去されるとしたら、それは大変なことです。遺伝子が働かなくなると、細胞の生命活動に支障が出るはずです。
DNAの複製機構が解明されると、このようなことが問題になりました。この問題は一般的に“末端複製問題”と呼ばれています。
理論上このような問題がありましたが、生物はこの問題を退ける手段を持っていました。DNAの末端に“テロメア”という特殊な配列を用意していたのです。テロメアは生命活動上必要な配列ではないので、短くなっても問題がありません。
とは言っても、テロメアの配列は有限です。そのため、生物はさらにすごいしくみを備えていました。短くなったテロメアを修復する“テロメアーゼ”という酵素を持っていたのです。これにより、生物は末端複製問題を克服している、ようにも見えました。
しかし研究が進むと、テロメアーゼは全生物全細胞で働いているわけではないことがわかりました。植物では基本的には働いているとか、ヒトでは幹細胞でしか働いていないとか、まだ研究が完全ではなく、なぜテロメアーゼが活性を失うのかなど含めて、未解明な部分は多いです。
ちなみに、テロメアがなくなると、細胞は死滅すると言われています。一方で、がん化した細胞のテロメアはがん化していない細胞よりのテロメアよりも長いことが指摘されています。
文章のみでわかりづらかったと思いますが、簡潔にまとめるとこんな感じです。
なお、インターネットで“テロメア”や“末端複製問題”と検索すると普通に情報は出てきます。興味のある方は調べてみてください。
下のサイトはテロメアに関するWikipediaのページです。参考にされてみてください。
超発展:DNA複製のモデリング
DNAの複製がどのようなメカニズムで行われているか、その詳細はまだはっきりとしているわけではありません。
原核細胞のDNAの複製に関しては、「DVD&図解:見てわかるDNAのしくみ、工藤光子・中村桂子著」という一般書物に付録したDVDで、CG化された動画を見ることができます。ただし、メカニズムを完全に再現しているわけではないようです。
なお、真核細胞のDNA複製メカニズムの動画化は、まだ行われていないようです。“DNAと結合しているヒストンが複製の際にどのような挙動をしているのか”という点が未解明だそうで、「非常に難解な課題だ」と中村桂子氏が先に紹介した本で述べていました。
総括
この単元の目標をおさらいとして紹介しておきます。
- DNAの構造単位と構造を理解し、DNAを構成するヌクレオチド鎖に方向性があることを理解する。
- 説明されたDNAの複製のようすを、頭の中でアニメーション化することができる。
①は問題ないと思いますが、②が難しいと思います。「頭の中でアニメーション化する必要なんてあるの?」と思われるかもしれませんが、管理人の主観ではある程度できた方がよいと思っています。“DNAの複製のしくみをアニメ化せよ”なんて問題は出題されませんが、ばらばらに散らばった情報を頭のアニメ化することで1つにまとめた方が覚えやすいと思っています。教科書や静止画だけでは無理だと思いますが、ぜひYotubeのinouebiology1氏の動画を見て理解を深めてください。
以上でこの記事は終わりです。ご視聴ありがとうございました。
文系に所属していますが理系学科を目指して、生物を独学で勉強しています。
学校の生物の先生には間に合わないからやめておけと言われ、その日から質問するのをやめて自分で全て調べ手探りで勉強し、独学を始めてから7ヶ月、模試ではいつも平均マイナス15の点を取っていましたが、共通テストで86点を取りました!
その中でもなぜか岡崎フラグメントのあたりだけ訳がわからなかったのですが、高校生物の学び舎さんに救われました。
受験勝ち抜いてきます。ありがとうございました。
りん 様
閲覧およびコメントありがとうございます。
共通テスト生物での高得点、本当におめでとうございます。
そして率直に申し上げますと、コメントを読んで感動しました。
うまく結果が出ず、生物を勉強することが辛かった時期もあったのではないでしょうか。
それでもめげずに独学を重ねて結果を勝ち取ったことは、素直に賞賛に値します。
この努力はきっとこれからの人生でも糧になるものだと私は感じています。
当サイトが役に立ったと聞くと私は嬉しいです。
ですが、教材が身近にあっても学ぶ意志がなければ学習は成立しません。
自分で探して学ぼうとしたりん様ご自身の素晴らしい能力に、ぜひ自信を持ってください。
りん様の合格を心より祈っております。
引き続き勉強に励んで下さい。
管理人シカマルより
追伸
コメント返信通知のメールを送りましたが、システムエラーでメールが返ってきました。
このコメントがりん様に届いていたら幸いです。