DNAの抽出実験は、高校生物基礎で扱われている実験の1つです。
この記事では、この“DNAの抽出実験”の要点を解説します。
実験の解説の下に、確認テストを用意しています。テストにも登場するので、内容を理解したら解いてみましょう!
実験内容
準備するもの
材料
冷凍したブロッコリーのつぼみの部分30g
※魚の精巣が用いられることもある。DNAの密度が高くて安いものなら何でもよい。
器具
乳鉢、乳棒、茶こし、ビーカー、ガラス棒、割りばし、シャーレ、ろ紙、ドライヤー
薬品
抽出用の溶液(塩化ナトリウム4.0gを水50mLに溶かし、中性洗剤を2滴加えたもの)、氷冷したエタノール、酢酸カーミン液、熱湯
実験方法
①抽出液の準備
抽出用の溶液(塩化ナトリウム4.0gを水50mLに溶かし、中性洗剤を2滴加えたもの)をつくる。
★1~2mol/LのNaCL水溶液が、DNAをよく溶かす。溶かすとは、DNAに結合しているタンパク質(ヒストン)から分離させることである。
★中性洗剤は、細胞膜や核膜などの生体膜を破壊する。
②粉砕
冷凍したブロッコリーを乳鉢に入れて、乳棒で約5分の間粉砕する。粉砕の程度は、つぼみが確認できないくらいである。
★常温ではDNA分解酵素がはたらくので、ブロッコリーを冷凍しておくとよい。また、手順⑥までの捜査を15分以内に行う。
③粉砕物と抽出液を混ぜて、かき混ぜる
乳鉢に抽出液を加えて、乳棒で静かにかき混ぜる。
★静かにかき混ぜないと、DNAが切断されてしまう。
操作③のあとにタンパク質分解酵素(トリプシンなど)を加えると、効率がよくなる。
④粉砕液のろ過
乳鉢のなかの粉砕液を、茶こしでろ過しながらビーカーに移す。
★ろ液の中にDNAが含まれているので、他の固体の物質をろ過で取り除く。
⑤ろ液に冷エタノールを混ぜる
ガラス棒を使って、④のろ液にろ液と同量程度の冷エタノールを静かに注ぐ。
★DNAは常温よりも冷えたエタノールに難溶である。
★エタノールは水よりも比重が軽いため、静かに注ぐと水の層の上にエタノールの層ができる。
⑥DNAの析出
ろ液の層とエタノールの層の境界に析出(沈殿)したDNAを割りばしで静かにからめとり、シャーレ上のろ紙の上にのせる。
★“沈殿”という言葉が用いられる理由は、下のイメージ図のように、“エタノール層の下の方に析出する”からである。
⑦染色
ろ紙をドライヤーで乾かしたあと、酢酸カーミン液をDNAに滴下する。約3分の間染色したのちに、ろ紙に直接かからないように熱湯を注ぎ、ろ紙を静かにゆらして(ろ紙に着いた染色液を)脱色する。
★酢酸カーミン液で染まれば、DNAであることを示すことができる。
★DNAに直接熱湯をかけると、DNAの構造が壊れてしまう。
実験結果
酢酸カーミンで赤く染色された糸状の物質を抽出できた。
実験考察
抽出された物質は、酢酸カーミンで赤く染まったのでDNAである。
実験方法のまとめ(PDF有)
操作 | 操作の内容 | |
① | 抽出用の溶液(塩化ナトリウム4.0gを水50mLに溶かし、中性洗剤を2滴加えたもの)をつくる。 | ★1~2mol/LのNaCL水溶液が、DNAをよく溶かす。溶かすとは、DNAに結合しているタンパク質(ヒストン)から分離させることである。 ★中性洗剤は、細胞膜や核膜などの生体膜を破壊する。 |
② | 冷凍したブロッコリーを乳鉢に入れて、乳棒で約5分の間粉砕する。粉砕の程度は、つぼみが確認できないくらいである。 | ★常温ではDNA分解酵素がはたらくので、ブロッコリーを冷凍しておくとよい。また、手順⑥までの操作を15分以内に行う。 |
③ | 乳鉢に抽出液を加えて、乳棒で静かにかき混ぜる。 | ★静かにかき混ぜないと、DNAが切断されてしまう |
④ | 乳鉢のなかの粉砕液を、茶こしでろ過しながらビーカーに移す。 | ★ろ液の中にDNAが含まれているので、他の固体の物質をろ過で取り除く。 |
⑤ | ガラス棒を使って、④のろ液にろ液と同量程度の冷エタノールを静かに注ぐ。 | ★DNAは冷えたエタノールに難溶である。 ★エタノールは水よりも比重が軽いため、静かに注ぐと水の層の上にエタノールの層ができる。 |
⑥ | ろ液の層とエタノールの層の境界に析出したDNAを割りばしで静かにからめとり、シャーレ上のろ紙の上にのせる。 | |
⑦ | ろ紙をドライヤーで乾かしたあと、酢酸カーミン液をDNAに滴下する。約3分の間染色したのちに、ろ紙に直接かからないように熱湯を注ぎ、ろ紙を静かにゆらして脱色する。 | ★酢酸カーミン液で染まれば、DNAであることを示すことができる。 ★DNAに直接熱湯をかけると、DNAの構造が壊れてしまう。 |
下のダウンロードリンクは、上記の表をPDFにしたものです。日常学習のお役に立てたら幸いです。
PDFのダウンロードおよび利用は、個人のみを対象としております。学校や塾などの組織での使用は今のところ許可していないので、お控えください。
確認テスト
問題
- NaCL水溶液の役割は何か?
- 中性洗剤の役割は何か?
- ブロッコリーを冷凍しておくのは何故か?
- ろ過液にエタノールを加えると2層になるが、エタノール層は上と下どちらか?
- DNAはエタノールに溶けるか、溶けないか?
- 酢酸カーミン溶液をどんな物質を何色に染めるか?
解答
- DNAを結合しているタンパク質(ヒストン)から溶かす。
- 細胞膜や核膜などの生体膜を溶かす。
- 低温にすることでDNA分解酵素の活性を低下させるため。
- 上
- 溶けない
- DNAを赤色に染める。
注釈
テストでは、操作の順番が並び替え問題として登場するので、手順も覚えておくとよい。
参考文献
Webにアップロードされている「岩手県立総合教育センター」の生物基礎実験についてのPDFファイルです。非常に詳しく解説されていて、とても参考になりました。他の生物基礎の実験方法も、このデータで見ることができます。
※PDFデータなので、スマートフォンでクリックすると、ダウンロードになると思います、ご注意ください。
総括
DNAの抽出実験は、実験が簡単で安全であることから、中学生でも行うことができる実験です。中学校によっては、高校の先生の出張授業でこの実験を行ったことがあるかもしれません。高校でも、材料が安いことから、好んで実験しているようです。テストのパターンは、上のようなかんじなので、できるようになっておくと得点源になるでしょう。
実際のところ、DNAの抽出実験は奥深いです。表面的なことだけ見ると簡単に見えますが、DNAの物理的特性を活かす操作が含まれています。管理人も「そうなんだ…。」ぐらいにしか理解していませんが、“操作の理由”をもっと詳しく調べると、DNAの奥深さが見えてくると思います。
もし学校でこの実験をやらなかったら、夏休みや年間の課題研究で行うとよいかもしれませんね!抽象的な操作が経験でわかると思います!
おわりに
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以上でこの記事は終わりです。ご視聴ありがとうございました。
なぜ,ブロッコリーを使うのですか?
ふ 様
コメントありがとうございます。
短く説明すると、“単位質量あたりのDNA量が多いから”になります。
また、記事で紹介している「岩手県立総合教育センター」の生物基礎実験についてのPDFファイルには、次のように書いてありました。
『ブロッコリーの蕾には小さい細胞が多く存在するために,同質量の他の部位に比べ核が多いためDNAも多く,抽出の材料として適している。』
ちなみに、入手しやすく安価であることも、経済的な面での理由になります。
参考になれば幸いです。
これからも高校生物の学び舎をよろしくお願いいたします。
管理人シカマルより
なるほど~
魚の精巣もブロッコリーみたいに単位質量が多いんですか?
banana 様
コメントありがとうございます。
魚の精巣がDNAの抽出実験に使われる理由は“単位質量あたりのDNA量は多い”からだと思います。
ブロッコリーのつぼみの細胞や魚の精巣に含まれる大きさは、一般的な細胞の大きさよりもおそらく小さいです。
細胞の大きさが小さく、かつ高密度で存在すると、単位質量(または同質量)あたりのDNA量は多くなるのだと、私は考えております。
余談ですが、魚の精巣を使う他の理由には、ブロッコリーのつぼみと同じく『安価で入手しやすい』ことが挙げられると思います。
これからも高校生物の学び舎をよろしくお願いいたします。
管理人シカマルより
※追記
細胞分裂が盛んであることも理由かもしれないです。