今回は、「生物基礎」の第3章“生物の体内環境”に登場する細胞周期のグラフと計算問題の解き方を紹介します。演習問題をわかりやすく解説しているので、わからない人でもグラフの見方や計算に挑戦してみましょう。なお、体細胞分裂を理解してからこの記事を見ることをおすすめします。
細胞周期のグラフと計算問題のパターン
このテーマも、ある程度はパターン化されています。最初にそのパターンの概要から紹介しましょう。
以上のパターンを、問題を紹介しながら解説していきたいと思います。
細胞周期の時間を求める問題①:計算編
問題
次のスライドにある問題を解いてみましょう。標準解答時間は5分です。
問題を解くことはできましたか?
まずは、この問題だけの解答と解説を行います。
解答と解説
解答:24時間
解説をはじめます。
この問題は計算問題になります。前提で必要となる知識は、“細胞数は細胞周期1サイクルで2倍になる”ということと、“2n(指数関数)の計算方法”です。
細胞数は、当然ながら体細胞分裂を1回行うことで2倍になります。1つの母細胞から2つの娘細胞が生じるという具合です。仮に細胞が1つあるとすると、n回の細胞分裂では下のスライドのように増えていきます。
よって、問題の解き方としては、次の式を組み立ててnの数値(細胞周期の回数)を求める方法が適しています。
1.6×2n=12.8
n=3
細胞周期が一定で、かつ核細胞の細胞周期の時期がまちまちであることから、実験時間の72時間を3回(n回)で割った数値が、答えとなる細胞周期1サイクルの時間に相当します。なので、72÷3=24(時間)が解答になります。
指数の計算の説明はここでは省略します。必要な人は数学の教科書を調べてください(数Ⅰだったような気がします)。なお、高校数学が全くわからない人は、2×2×2で2を3回かけている、その3回が細胞分裂の回数になる、とだけ考えてもらえれば問題ないです。
細胞数は、細胞周期1サイクルを経ると、元あった個数の2nをかけた値だけ増える。
細胞周期1サイクルにかかる時間を計算する場合、多くの問題ではスライドにあったように“ただし書き”があります。ただ、このただし書きはほぼほぼ無視してもよいです。細胞周期の時間が一定であることは、単純に実験時間から細胞周期の回数を割って1サイクルの時間を求めさせるための設定です。また、各細胞の細胞周期の時期に一定の偏りがある場合(例:すべてS期の最初)はそこで何かを考慮する必要がありますが、そのような問題は今のところ管理人の経験では見たことがありません。
細胞周期の時間を求める問題②:グラフ編
問題
簡単な例題からやってみましょう。次のスライドの問題を解いてみてください。標準解答時間は1分です。(すぐわかった人は次のスライドまで進めましょう。頻出問題の形式の問題をスライドにしています。)
上のスライドの問題で細胞周期の時間を求めるときも、前提となる知識は1-1と共通です。つまり、“細胞数は細胞周期1サイクルで2倍になる”ということになります。グラフを見て簡単だなと思ったかもしれません、解答は、
解答:細胞周期の時間は20時間
です。解説は必要ないでしょうか。実験開始からの細胞数の変化を見ていくと、
- 30時間のとき:50
- 50時間のとき:100
- 70時間のとき:200
となっており、20時間経つ度に細胞数が2倍に増えています。よって、細胞周期の時間は20時間と答えるのが正しいです。
では、本番形式をやってみましょう。
下のスライドの問題を読み取って細胞周期の時間を求めてみてください。頻出問題のパターンでグラフをつくったので、解いてみてください。ヒントを書いておくので、理詰めで答えを出すことができるように努めましょう。標準解答時間は5分です。
問題を解くことはできましたか?
どのように理詰めで正しい問題を解くのか、解説していきます。
解答と解説
解答:20時間
解説に移ります。
先に練習していたので簡単に解くことができたかもしれませんが、この問題を見て経験してほしかったことがあります。それは、「細胞周期が10時間の可能性もあるかもしれない…」、と引っ掛かりそうになりつつも正答するということです。それができた人は、しっかりと理詰めで正答することができています。何が大事なのか、確認してみましょう。
前の例題で細胞周期が20時間だったので、この問題でも20時間だろうと思ったかもしれません。しかし、スライド中のグラフが片対数グラフの目盛りと重なっているところを全部探そうとすると、点を3つあるいは4つ打つことができたのではないでしょうか。下のスライドのような感じです。
スライドの右に書いてある文章のように、一見すると40時間のところもグラフが目盛りと重なっているように見えるので、点を打つかもしれません。しかし、仮に細胞周期が10時間だとすると、60時間のところも点を打てるはずですが、60時間のところでは明らかにグラフと目盛りは重なっていないため、点を打つことができません。よって、40時間のところの点がわずかにずれているかもしれない可能性を信じ、点を打たない判断をする必要があるのです。
ちなみに40時間のところをかなり拡大すると、下の画像のようになっています。ごくわずかに、グラフと目盛りがずれているのが、わかってもらえると思います。
長くなりましたが、以上のことから、解答は20時間となります。
細胞周期の片対数グラフで細胞周期の長さを読み取ったとき、それがきちんとグラフに反映されているかを確認する。
細胞周期の各時期の時間を求める問題①:細胞数割合編
問題
下のスライドの問題を解いてみましょう。いきなり実践形式です。標準解答時間は5分です。
まず、予備知識の確認だけしておきます。
細胞周期のそれぞれの時間というのは、G1期(DNA合成準備期)、S期(DNA合成期)、G2期(分裂準備期)、M期(分裂期)のことを指します。細胞周期は、“G1期→S期→G2期→M期→G1期→…”というように繰り返されます。
M期をさらに細かく分けると、前期、中期、後期、終期というふうになりますが、この手の問題ではM期のそれぞれの時間まで求める必要はありません。
では、この問題の解答と解説を確認しましょう。
解答と解説
解答:G1期:10時間、S期:4時間、G2期:5時間、M期:1時間
では、解説をはじめましょう。
リード文で細胞周期は20時間と書いてあるので、G1期・S期・G2期・M期の4つを足した時間は20時間ということになります。それぞれの時間は、その20時間に全体の細胞数10000個に対してのその時期の個数の割合を掛けた値が相当します。下のスライドのように計算式を立てます。
まずは、棒グラフで各時期の細胞数を読み取りましょう。読み取るためにはDNA量を参考にする必要があります。まとめると、
- DNA量2:G1期
- DNA量2~4:S期
- DNA量4:G2期+M期
となります。なので、グラフを読み取ると、
- G1期の細胞数:5000個
- G2期+M期の細胞数:3000個
ということは明らかにわかります。しかし、S期の細胞数はグラフを読み取ることではわかりません。S期の細胞数は、下の式のようにわかっている情報を使って引き算で求めることができます。
- S期の細胞数=合計の細胞数ーその他の時期の細胞数=10000-(5000+3000)=2000(個)
また、M期の細胞数については、リード文で500個だと書いてあることを利用して、
- G2期の細胞数=(G2期+M期の細胞数)ーM期の細胞数=3000-500=2500(個)
となります。(G2期の細胞数を“M期の細胞数”と誤って表記していました。)
このことから計算式を組み立てると、下のスライドのようになります。
計算自体は簡単なので、各時期の細胞数の読み取り方さえわかれば、比較的簡単に解くことのできる問題でした。この手の問題では各時期の細胞数は必ずわかるようになっているので、落ち着いて情報整理をすることが問題を確実に解くために必要だと思われます。
各時期の時間は、細胞周期の時間に細胞数全部に対するその時期の細胞数の割合を掛けると求まる。
細胞周期の各時期の時間を求める問題②:細胞数の比編
問題
下のスライドの問題を解いてみましょう。基本的な解き方は2-1と同じです。標準解答時間は5分です。割合を意識すると比較的すぐに解くことができると思います。
「面積が何を意味しているのかわからない」と思った人もいるのではないでしょうか。このグラフにおけるその範囲の面積というのは、その範囲の細胞数のことを意味します。高校数学の知識で言うならば、“積分”に相当します。ただ、この問題では積分の式を使うような難しいことは行いません。
では、解答と解説を確認しましょう。
解答と解説
解答:G1期:11時間、S期:5時間、G2期:3時間、M期:1時間
解説をしていきます。
根本的な考えは2-1と変わらないので、先に計算式のスライドを貼っておきます。これを見てわかった人は、後の解説文を読む必要はありません。
計算式の組み方は、スライド9で紹介した下のものを使います。ただし、リード文で合計の細胞数とM期の細胞数が書いてあることから、M期の時間についてはスライド9の上の式を使います。G2期とM期の合計が4時間であることとM期の時間が1時間だとわかれば、G2期の時間は3時間だと求まるはずです。解説はこれくらいで終わることにします。
グラフに書いてある“細胞当たりのDNA量”の書かれ方は、2つのパターンがあります。1つは実際の細胞と同じように2~4と書いてあります。もう1つは、相対値として1~2と書いてあります。この相対値の場合は「2~4を2で約分すると1~2になる」というようなかんじです。DNA量の数値に振り回されないように気を付けましょう。
細胞数の面積比でも、割合の計算から細胞周期の各時期の時間を求めることができる。
総括
細胞周期のグラフと計算の問題はパターン化されているので、今回の記事にあったことを理解すればおおよそ問題を解けるようになるとおもいます。ただ、この記事では、「細胞集団の図を観察して、それぞれの細胞が細胞周期のどの時期にあるかを読み取り、そこから各時期の細胞数を読み取る問題」を紹介できませんでした。この問題形式もよくある問題なので、学校の副教材や問題集で探して練習するのも望ましいです。いつか高校生物の学び舎でも解説したいと思います。
なお、細胞周期の問題で一番難しいテーマは、「チミジンを使った実験問題での細胞周期の時間の計算」です。かなりの難問で、難易度は高校生物レベルなので、生物基礎の参考書には載っていないと思います。難関大学受験のときに生物を選択する場合、解いておいたほうがよいと思います。
おわりに
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以上でこの記事は終わりです。ご視聴ありがとうございました。
細胞周期の各時期の時間を求める所
細胞数を使用
また、M期の細胞数については、リード文で500個だと書いてあることを利用して、
M期の細胞数=(G2期+M期の細胞数)ーM期の細胞数=3000-500=2500(個)
ここがM期の細胞数ではなくG2期を求めているため表記が誤っていると思ったため、コメントさせて頂きました。
ちきん 様
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り管理人が誤った表記をしておりましたので、修正させていただきました。
ご協力のほど真にありがとうございます。
これからも高校生物の学び舎をよろしくお願い致します。
すみません。
問題2-①について、
求め方についての公式はわかったのですが、なぜそうすれば求まるのかがわかりません。
自分には、ある時点での各期間の細胞数と各期間の時間の長さが関係ないように思えます。
よろしければ教えてないでしょうか。
おくやす 様
閲覧およびコメントありがとうございます。
受験繁忙期なので、急ぎポイントのみご説明させていただきます。
ずばり、「各細胞の細胞周期の時間(各期含む)は同じであり、かつ各細胞の分裂のようすに同期生は見られない」ためです。
(定期テストや受験問題にはリード文に上記が書いてあることがあるので、私の解説不足だったと感じています…。)
ただ、このポイントを簡単にイメージできる例が今のところ浮かばないので、思いつき次第改めてお伝えしたいと思います。
(速度が同じマラソンランナーが複数の領域に分かれた1つの円コースを走っている感覚です。)
この度はご質問いただきありがとうございました。
記事修正の参考にさせていただきます。
今後も高校生物の学び舎をよろしくお願い致します。
管理人シカマルより