この記事では、高校生物基礎の第2章「遺伝子とその働き」に登場する“ゲノム”の意味について、DNA・染色体・遺伝子とあわせて解説を行っています。日常学習のお役に立てたら幸いです。
高校生・受験生でゲノムの意味に自信がない人は、以下の解説を読んで理解を試みてください。自信がある方は、解説の下に用意している問題を解いて確認してみてください。
以下の内容は、あくまでも高校生物基礎・生物の範囲での話です。より専門的な場合は内容が異なる可能性があることについては、ご容赦ください。
ゲノムの意味
古典的な意味
古典的には、“生殖細胞のもつ染色体セット”という意味を持ちます。
生殖細胞は、体細胞の半分の染色体をもっています。ヒトの場合、相同染色体を1本ずつ計22本に加えて、性染色体のXかYのどちらかをもっています。この合計の染色体数23本が、古典的な意味でのヒトゲノムと言えます。
なお、「生物をその生物たらしめるための最小の染色体数」と改まった定義が使われる場合は、相同染色体を1本ずつの計22本に加えて、性染色体のXとYの両方を含む合計24本のことを指します。
古典的な意味での1ゲノムとは、相同染色体1本ずつと性染色体を合わせた合計の染色体の本数のことを指す。
現代的な意味
現在よく使う『ゲノム』の意味は、“1ゲノム分の塩基配列”です。
DNAにおいて情報となるものは、塩基の並び方、つまり塩基配列のことです。DNAの構造が判明してからは、1ゲノム分の塩基配列すべてのことをゲノムと指すようになりました。
ヒトに関して言うと、相同染色体を1本ずつ計22本に加えて、性染色体のXとYも加えた合計24本分の染色体に含まれるDNAの塩基配列のことになります。ちなみに、ヒトゲノムの塩基配列の長さ(1ゲノム分)は30億塩基対になります。なお、ヒトゲノムとは、ヒトがヒトであるための最低限の情報とも言えます。
発展的に扱う場合は、ミトコンドリアや葉緑体に含まれるDNAの塩基配列も、その生物のゲノムに含まれます。
なお、ヒトゲノムの解析は、ヒトゲノムプロジェクトという世界共同での研究によって2003年に完了しました。
現代的な意味でのゲノムは塩基配列の情報のことを指すので、例として挙げるならば下のスライド1のように示すことができます。
現代的な意味での1ゲノムとは、相同染色体1本ずつと性染色体を合わせた合計の染色体のDNAに含まれる全ての塩基配列のことを指す。
ゲノムの意味のまとめ
上述の2つのポイントをまとめ直すと、下の板書のようになります。
- 古典的には、相同染色体1本ずつと性染色体を合わせた合計の染色体の本数のことを指す。
- 現代的には、相同染色体1本ずつと性染色体を合わせた合計の染色体のDNAに含まれる全ての塩基配列のことを指す。
高校の定期テストや大学入試の対策では、古典的な意味と現代的な意味の両方を理解しておいた方がよい。
ゲノムがDNA・染色体・遺伝子と異なるところ
ゲノムとDNAの比較
ゲノムとDNAは、“現代的なゲノム”の意味で似ているところと異なるところがあります。
まず、似ているところとしては、ゲノムもDNAも塩基配列が関わっているところです。現代的なゲノムの意味は、『相同染色体1本ずつと性染色体を合わせた合計の染色体のDNAに含まれる全ての塩基配列のこと』と紹介しました。また、DNAはその構造の中に塩基配列が存在します。
ゲノムとDNAの双方が塩基配列に関わっているとは言っても、両者での塩基配列の意味合いは異なります。ゲノムにおける塩基配列とは“情報”のことであり、DNAにおける塩基配列は“構造”です。
このことから察するかもしれませんが、ゲノムの意味にはDNAの構造的な部分は含まれません。例えば、DNAの二重らせん構造は、ゲノムの意味としては扱われません。
ゲノムの意味にはDNAの塩基配列が“情報”という意味合いで含まれるが、DNAの構造的な特徴は含まれない。
ゲノムと染色体の比較
ゲノムと染色体は、“古典的なゲノム”の意味で内容が重複する部分があります。
まずは、真核生物の代表例としてヒトで紹介します。下のスライド2を見てください。
古典的な意味でのゲノムは、相同染色体1本ずつと性染色体を合わせた合計の染色体の本数のことを指します。よって、スライド2のように相同染色体と性染色体の合計46本を示したとき、ヒトにおけるゲノムとは“相同染色体1本ずつの計22本”に“性染色体のXとY”を加えた合計24本のことを指します。
また、現代的な意味でのヒトゲノムの場合は、古典的な意味でのヒトゲノムである24本の染色体に含まれるDNAの塩基配列全てのことを指します。
次に、原核生物の場合についても少し触れておきます。
大腸菌が代表的な例である原核生物ですが、原核生物の染色体はDNAそのものです。真核生物の染色体はDNAにヒストンなどのタンパク質が結合してヌクレオソーム構造・クロマチン構造を成していましたが、原核生物ではDNAには特にタンパク質は結合していないとされており、DNAがむきだしの状態で細胞内に存在します。また、ヒトのように複数の種類の線状染色体はなく、1本の環状DNAだけ、つまり1種類の環状染色体だけが存在します。図にするとスライド3のようになり、左図のDNA(染色体)がその原核生物の古典的な意味でのゲノムになります。
以上のように、ゲノムと染色体の関係は古典的な意味でつながりが深いですが、現代的な意味でもつながりはあります。(真核生物では特に)染色体にDNAが含まれるので、塩基配列は染色体に含まれると言うことができるからです。ただこの見方では関係性が遠いので、現代的な意味でのゲノムでは染色体よりもDNAと関係が近いとした方が回りくどくない、と管理人の主観では思います。
ゲノムと遺伝子の比較
ゲノムと遺伝子については、“現代的なゲノム”の意味に含まれる塩基配列の情報という点で同じ意味合いを持ちます。
ただし、ゲノム=遺伝子というわけではありません。生物の塩基配列には“意味のない領域”が存在し、原核生物ではわずかに、真核生物では多量に見受けられます。真核生物ヒトの場合、ゲノムのうちのたった2%だけがタンパク質の情報を担う遺伝子だとされています。ですが、その他である98%もヒトの遺伝情報であることには変わりありません。
本題とは話がずれますが、タンパク質の情報を担わない塩基配列をもつDNAのことを、かつてはジャンクDNA、つまりごみのDNAと呼んでいました。しかし研究が進むにつれてジャンクDNAにも機能をもつ塩基配列があることがわかりつつあり、今現在の研究の1つの主流でもあります。
理解の確認
問題
次の各問の文章が、“ゲノム”・“DNA”・“遺伝子”・“染色体”のどれに該当するか、答えなさい。ただし、答えが1つとは限らない。
- ヌクレオソーム構造とクロマチン構造
- 二重らせん構造
- 構造という意味での塩基配列
- 情報という意味での塩基配列
- タンパク質の情報元
- 真核生物の核内に収まっている遺伝物質
- ある種の生物の最低限の遺伝情報
- 1セットの染色体
- 1セットの塩基配列
- 転写される単位
- 遺伝子の本体
- ヒストン等とあわさって染色体になる物質
- 染色体を構成する物質の1つ
- ヒトの遺伝情報の約2%
- ヒトの遺伝情報のすべて
- 内部に塩基対が見られる構造
他に問いになりそうな文があったら、コメント欄にてお知らせください。確認の上、追加したいと思います。
解答
- 染色体
- DNA
- DNA
- ゲノム・遺伝子
- 遺伝子
- 染色体
- ゲノム
- ゲノム
- ゲノム
- 遺伝子
- DNA
- DNA
- DNA
- 遺伝子
- ゲノム
- DNA
上記の解答は、管理人の意図と模範的な回答が異なる可能性もあります。疑問に感じたことがありましたら、遠慮なくコメントでご指摘ください。
総括
ゲノムを理解できなくて苦しむ受験生に教えたことがありますが、なかなか理解してもらえず、そのときは管理人・当人のお互い苦労しました。最初に挙げたように一応定義のようなものは存在するのですが、問題に直面したときにどんな意味なのか理解できないというのが受験生の現状かもしれません。その部分を補完したい意味があって比較を出したり問題をつくったりしてみたのですが、いかがだったでしょうか。悩みの種の解決に役立つことができればと思います。
おわりに
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以上でこの記事は終わりです。ご視聴ありがとうございました。
原核生物のDNAと真核生物のDNAの比較を知りたくて訪れました
ありがとうございました
toku-chan 様
閲覧およびコメントありがとうございます。
微力ながらお手伝いできて幸いです。
今後とも高校生物の学び舎をよろしくお願い致します。
管理人シカマルより