第2章「細胞と分子」 PR

「高校生物教科書解説」細胞の構造

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この記事では、高校生物版での“細胞の構造”について、解説します。

細胞の基礎知識

細胞は、生物の基本単位で、すべての生物に見られます。細胞の意味を定義すると、「細胞膜に囲まれ、原則的には内部に1個のをもつ生体の構造的・機能的単位のこと」というようになります。この定義に沿った核をもつ細胞は、真核細胞と呼ばれます。対して、核を持たない細胞は、原核細胞と呼ばれます。この記事では、これらの細胞の構造を説明することにします。構造物のかたちや機能については、次の「F-3:細胞小器官」で説明します。

真核細胞と原核細胞の違い(簡易版)真核細胞と原核細胞の違い(簡易版)

真核細胞

真核細胞で構成される生物体のことを、真核生物と呼びます。真核生物にどのような生物がいるかというと、ホイタッカーの五界説で分類される「動物」、「植物」、「菌類」、「原生生物」になります。ここでは、高校生物で触れられている動物細胞と植物細胞について見ていきましょう。

1.動物細胞

まず、動物細胞についてです。下の図は、動物細胞を立体的に模式化したものになります。注意書きしておきますが、実際は構造物に色はありません。構造物を区別化しやすいように、意図的に着色しています。

動物細胞のイメージ動物細胞のイメージ

細胞を囲んでいるものは、細胞膜という生体膜です。細胞内は液体で満たされており、その部分を細胞質基質と呼びます。また、それぞれの細胞内構造物の名前は、下の通りです。

小胞体は、生体膜で結合しています。球体の部分が核で、袋状になっている部分が小胞体です。小胞体に細かい粒が付いていますが、その粒はリボソームです。小胞体のうち、リボソームの付着している部分を特に粗面小胞体と呼び、付着していない部分を滑面小胞体と呼びます。上の図で言うならば、管がにょきにょきしている部分が滑面小胞体になります。

核と小胞体、また、その他の細胞内構造物であるミトコンドリアゴルジ体リソソーム、リボソームの詳細な機能と構造については、次の「F-3:細胞内構造物」で説明します。

2.植物細胞

次に、植物細胞についてです。下の図は、植物細胞を立体的に模式化したものになります。上記の動物細胞と同じように意図的に着色していますが、葉緑体だけは実際に緑色に見えます。

植物細胞のイメージ植物細胞のイメージ

動物細胞と同じ構造物がいくつかありますが、違いもありますね。細胞を囲んでいる部分を見ると、厚みがあるのがわかると思います。細胞膜は内側の線で描いている部分で、厚みの部分は細胞壁と呼ばれる構造物です。下に図中の構造物の名前をまとめておきます。

動物細胞にはなくて植物細胞にあるのは、葉緑体液胞と細胞壁です。逆に植物細胞になくて動物細胞にあるのは、中心体です。その他の核、粗面小胞体、滑面小胞体、ミトコンドリア、ゴルジ体、リボソームは共通して存在します。ただし、植物細胞のゴルジ体は小さいため、光学顕微鏡で観察することはできません

原核細胞

原核細胞は、細胞内構造物の分化(※)があまり進んでいません。核はなく、染色体は細胞内でむきだしの状態となっています。下の図は、原核細胞を模式化したものです。
(※分化:発達して異なる機能をもつものが生まれること)

原核細胞のイメージ原核細胞のイメージ

原核細胞の細胞膜の内側は、真核細胞と同じように液体で満たされており、やはり同じようにその部位を細胞質基質と呼びます。構造物は、染色体の他に、細胞壁、リボソーム、プラスミド、線毛、べん毛があります。いくつか特徴をまとめると、以下のようになります。

  1. 原核細胞の細胞壁は、植物と異なり、「ペプチドグリカン」というタンパク質が成分になっています。
  2. 真核細胞の染色体は線状ですが、原核細胞の染色体は環状です。
  3. プラスミドは、染色体に含まれるDNAとは別に存在する小型で環状のDNAです。
  4. 線毛べん毛は、原核生物が運動する際に機能します。

原核細胞の細胞内構造物でのちに登場するものは、プラスミドです。プラスミドは、遺伝子組換え技術で用いられています。その詳細は、生物第3章「遺伝情報の発現」で紹介することにします。

生物基礎でも紹介した原核生物でよく登場する生き物を、以下にまとめておきます。高校生物では、これ以上に原核生物が登場します。

代表的な原核生物のまとめ代表的な原核生物のまとめ

なお、原核生物は、2つのグループに分かれます。1つは細菌(バクテリア)、もう1つは古細菌(アーキア)です。古細菌には、高温や高酸などの極限環境で生活するものもいます。ちなみに、系統的には真核生物は細菌よりも古細菌に近いことがわかっています。

真核細胞の階層構造

階層構造という難しい言葉を理解することは難しいですが、”スケールの違いで物事を分けること”と捉えてもらえればよいかと思います。まずは、以下の図で理解を試みましょう。

真核細胞の階層構造真核細胞の階層構造

なお、このように呼び名が区別されたことについては、細胞学の歴史が関わっていると思われます。この階層構造に関わる細胞学の歴史を紹介すると、以下のようになります。

  1. 顕微鏡で植物細胞を観察したら、区画が見えた。しきりの部分を細胞壁と呼んで、中身の部分を原形質と呼ぶことにしよう。
  2. 染色液を使ったら、原形質の中に核を見出すことができた。核以外の部分は、細胞質と呼ぶことにしよう。
  3. 細胞質を調べたら、ミトコンドリアとか葉緑体とかの構造物を見つけることができた。これらの構造物は、核と合わせて細胞小器官と呼ぶことにしよう。

こんな感じで、真核細胞には階層構造があるということがわかってきたのでしょうね。

”真核細胞の階層構造”というテーマは、教科書では見かけなくなりました。しかし、入試問題で出ることがあるので、一応内容をおさえておくことをおすすめします。

発展:細胞小器官の定義は曖昧

”細胞小器官”という言葉の定義はあいまいで、広義の意味と狭義の意味では、含まれる構造物の種類には違いがあります。研究者も使う岩波生物学辞典(第5版)では、次のように説明されています。

膜に囲まれ細胞質基質から判然と区画された構造(核・小胞体・ゴルジ体・ミトコンドリア・葉緑体・リソソーム・ペルオキシソームなど)を指す場合と、細胞骨格系のような超分子複合物をも含む場合がある。

このように曖昧であることから察するに、おそらく研究者たちの間では細胞小器官という言葉の定義はあまり意味を成すものではなくなってきてるのでしょう。一昔前の顕微鏡の解像度が低かった時代はこれらの構造の意味を調べることに意味がありましたが、現在は分子レベルでの生理メカニズムの解析が主流であることが理由です。

ちなみに高校生物の教科書では、広義の意味を採用しており、核・小胞体・ゴルジ体・葉緑体・リソソーム・ペルオキシソームに加えて、リボソーム・細胞骨格・中心体・細胞壁・液胞も、”細胞小器官”の意味に含まれています。学校でのテストや大学入試においては、この通りに従った方がよいです。

今回はこれで終わりです。ご視聴ありがとうございました。

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